低線量被ばくによる影響

低線量被ばくによる影響とは?

短時間に被ばく線量が閾値(作業時の線量上限値)の250ミリシーベルトを超えると、放射線の影響が現れますが、低線量の場合はどんな心配があるでしょうか。

100ミリシーベルト以下の被ばくを、低線量被ばくと言います。低線量被ばくによる影響は、被ばく線量によって、将来がんや白血病などになる確率が上がるというものです。

例えば、一部の食品添加物や、労働・生活環境、有害物質の摂取によってがんの罹患を誘発する確率が上がる、というのも同じ考え方です。

低線量被ばくによる影響は、どのようなことがわかっているのでしょうか。確率の問題ですから、多数のサンプルによる長期的な疫学的調査がなされなければなりません。

日本では世界で唯一、原爆被爆者12万人の大規模な疫学的調査がなされました。その結果わかったことは、100ミリシーベルト被ばくしたグループの発がんによる死亡割合は、0.5%であるということです。

被ばく線量が増えるにしたがって、その確率は上がっていきます。放射線医学総合研究所は、そのことを次のようなグラフで表しています。

では、職業での1年間の限度である50ミリシーベルトの被ばくや、今回の事故によりそこで1年間生活すると20ミリシーベルト被ばくする恐れがあるため計画的に避難させられた地域での被ばくは、どの程度影響があるのでしょうか。

結論は、”わからない”です。なぜ“わからない”と表現するのでしょうか。

日本人の死因の第一位が「がん」

それは、日本人の死因の第一位が「がん」であるからです。このグラフによると日本人の約30%が、放射線被ばくに関わらず、がんで死亡しています。

100ミリシーベルト以下の被ばく線量による影響は、この放射線以外の発生率の誤差内に含まれるほど、小さくはっきりしないということです。

では、100ミリシーベルト以下の被ばくは危険なのでしょうか、安全なのでしょうか。かつての化学薬品などによる公害などでは、安全基準値が決められ、それ以下であれば安全と表現されましたが、将来起こりうるがんの発生といった長期的な影響については考慮されませんでした。

現在は、すぐに影響が出なくても、長期的に見て有害な影響を受ける可能性を“リスク”として、考えられるようになっています。

これは、個人レベルで影響があるかどうかというよりも、集団として影響があるかどうかが観点となります。

疫学的調査でははっきり示すことができなかった、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくによる影響は、どのように考えられているのでしょうか。

閾値なし直線仮説とは

これは、「閾値なし直線仮説」という考え方です。イメージの図を以下に示します。

X軸の放射線量100ミリシーベルトを超えたところは、健康リスクがあり、がんを発病して死亡する確率があることがわかっていますので、レッドゾーンになります。

それより低い被ばく線量による健康影響は不明なので、わかっているリスクを直線で延長して、リスクは被ばく線量に比例すると考えることにしました。

そのため、この線量以下は影響が表れないという閾値を設けず、ごくわずかの被ばくもその線量に応じた健康リスクが存在すると考えます。これを「閾値なし直線仮説」と言います。

言い換えれば、被ばく線量は少なければ少ないほどよいということになります。この考え方は一般の方には理解しにくいので、今回の事故でも大きな混乱を招きました。

少しの被ばくでもリスクがあるということは、すなわち、自分が被害を受ける可能性があるのですぐにでも避難しなければならない、と考えた方も多かったようです。

直線仮説のほかにも、低線量被ばくの健康リスクについて、もっと大きい(グラフ 赤の点線)、いや低レベルの被ばくはむしろ健康に良い働きをする(グラフ 青の点線)という様々な考え方があります。

その中で、国際専門機関の勧告やそれに基づく日本の被ばく管理の法体系は、この直線仮説をもとにリスクを考えています。

日本には、ラジウム温泉やラドン温泉など放射能を含む、または放射線量の高い施設があり、健康に良いと人気がありますが、これは、ごく低レベルの放射線被ばくは健康に良い働きをすると認めていることになります。

いずれにしても、調査研究で明らかにできない低線量被ばくの影響は、 考え方次第といえるかもしれません。

参考

■厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf

■環境省(LNT モデルをめぐる論争)

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h28kisoshiryo/h28kiso-04-01-06.html

■環境省(低線量率被ばくの発がんへの影響)

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-03-07-04.html

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